樹木の実生繁殖 By Flavon
 
1 はじめに
 樹木の繁殖法としては、挿木、接木、取木などの栄養繁殖法と種子による実生繁殖法があります。
 斑入りや八重咲きのような変異個体を増殖するためにはふつう栄養繁殖を行いますが、一度に大量の個体を増殖したい場合には実生繁殖が必要です。

 一口に実生繁殖といっても、樹木の種類は様々ですから種子の大きさ、形、発芽の様式などは千差万別です。
 そのすべてをここで知ることは到底不可能ではありますが、千葉県花植木センター内に植栽されているいくつかの樹種を中心に、実生繁殖の基礎を修得していただきたいと思います。
 
2 樹木の種子の性質
(1) 種子の寿命 
 種子の寿命は植物の種類や乾湿の条件、温度条件などによってかなり異なります。
 みなさんが栽培する草花などの多くは、一般によく乾燥させて低温下に貯蔵すると長期間発芽力を保ち続けることが知られています。
 しかしながら、樹木の場合はその逆で、乾燥することにより発芽力がなくなるものが多いのです。
 乾燥に強い仲間
  裸子植物の球果類(マツ、スギ、ヒノキなど)、カバノキ科(シラカバ、ミヤマハンノキなど)
  マメ科、ツツジ科(ヤマツツジなどの”さく果”を形成するもの)
  カツラなど地上に子葉を展開し、さく果を形成する種類
 乾燥に弱い種類
  ヤナギ科(ヤナギ、ドロノキ、ポプラなど)、マツ科以外の裸子植物(イチョウ、イヌマキ、カヤなど)
  ブナ科(ブナ、クリ、コナラ、スダジイなどドングリを作るもの)
  翼果を着けるもの(カエデ科、ニレ科ニレ属、クルミ科の一部)
  多肉液質の果実(ヒイラギナンテン、マユミ、ガマズミなど)
  ツバキ、トチノキ、サクラ、アオキ、ヤマボウシなど
(2) 種子発芽
1) 休眠
 樹木の種類や種子の成熟度、保存の状況などにより播種から発芽までの期間は大きく異なります。
 これは種子の休眠によるもので、硬実化(種皮の著しい硬化)による強制的な休眠、遺伝的なタイマーを内蔵している場合、胚が未熟で種子中での後熟が必要な場合などがあります。
 従って、播種直後に発芽するものから2〜3年後に発芽を始めるものまで、その期間は種類や条件により異なります。
2) 実生の形態 
 発芽時の子葉の形態は種類によって様々です。
 裸子植物(針葉樹など)の多くは2〜10枚以上の子葉を展開しますが、イチョウやカヤのように展開しないものもあります。
 単子葉植物のシュロやサルトリイバラは地上に子葉を展開しません。
 双子葉植物では子葉は原則として2枚ですが、地上に展開するものとしないものがあります。
 子葉の形や大きさは種類により異なりますが、一般的には切れ込みのない楕円形、卵形、広線形などが多いようです。
 なかにはシナノキのように子葉がモミジのような形をしたものや、キササゲのように葉の先がアサガオの子葉同様深く切れ込んだものなどがあります。
 根の形態も子葉同様種により異なりますが、多くの樹木は真っ先に1本の直根を長く伸ばし、次いで側根を少しずつ伸ばしてきます。
 そのほか、サネカズラのように最初から多くの根が同時に生ずるもの、イヌマキやオヒルギのように、樹上ですでに発根しているもの、コナラやクヌギのように秋の落果直後に発根し、春になってはじめて地上茎を伸ばしてくるものなどがあります。
3 実生の成長
(1) 本葉などの形態の変化
 樹木は種類によって、発芽後に展開してくる本葉などの形態が、幼時と成熟したものとで大きく異なる場合があります。
 ヤツデは発芽直後の本葉は切れ込みがありませんが、本葉の数が増えるにつれ次第に切れ込みの数が増えていきます。
 ヤマモモは逆に稚苗時に深い欠刻のある鋸歯を持っていますが、成長するにつれて切れ込みのない葉へと変わります。
 ナシの実生苗では発芽後数年間(幼若部)は茎に長いトゲを持っていますが、大きく成長するとトゲは発生しなくなります。
 つる性の樹木は、一定の大きさになるとツルを伸ばして物に這い上がろうとします。
(2) 根の成長
 根は直根性のものでは長大な直根を主に伸ばしますが、浅根性の樹種では地下の浅い部分に多くの側根を伸ばしてきます。
 特に、ツツジ科の植物などは、網の目のような細かい根を張りめぐらしてきます。
 つる性の木本のなかには、ツタのように付着根を出して木や岩によじ登り始めるものもあります。
 多くの樹木は根に微生物が取り付き、共生関係を持ち始め、健全な育成を助けます。
(3) 光の環境と樹木の生育
 樹木は種類によって、直射日光がなければ生育できないものと日陰でも生育できるものがあります。
 また、トチノキ、マテバシイ、タブのように幼時には耐陰性があるが大きくなると直射光が必要になるものがあります。
 直射日光を好む陽樹は、アカマツ、ヒノキ、ケヤキ、カツラ、ユリノキ、ネムノキ、センダンなどがあります。
 日陰で育つ陰樹は、ツバキ、ヤツデ、アオキ、クスノキなどがあります。
4 種子の採取と貯蔵
(1) ヤナギ科
 ヤナギ科の種子は春から夏にかけて綿毛とともに風に舞い、短時間のうちに発芽力を失っていきます。
 従って、種子が散り始めたら直ちに採種し、その日のうちに播種すると良く、貯蔵はできません。
(2) ツツジ科、ハコネウツギ属、カツラ等
 乾燥に強いこれらの種子は、朔果が乾燥して裂開するとこぼれ落ちてしまいがちです。
 そこで、果実に色が付いて裂開直前になったら果実ごと採取し、紙の上などに広げて陰干しすると、果実が裂開して多量の種子がこぼれ出してきます。
 種子は乾燥した冷暗所で密封保存します。
(3) ブナ科、トチノキ属、エゴノキ属など
 これらの種子は、乾燥させると急激に発芽力を失います。  
 そのため、採種は種子が落下した直後のものを集めなければなりません。
 また、湿らせた新聞紙などに挟んで冷蔵庫などで保存すると、ある程度の期間は貯蔵できますが、貯蔵中に発根し始めることもありますので、採り播きしたほうがよいでしょう。
(4) 多肉質の果肉に包まれた種子
 これらの種子は、原則として採種後直ちに果肉を洗い去り、湿らせた状態で冷暗所に貯蔵します。
 サクラの仲間は、採種後、秋まで貯蔵して播種すると良いでしょう。
 多くの樹木は、原則として秋か翌年春早く播種します。
(5) その他の種子
 その他の種子の多くは、やはり過乾燥により発芽力が低下したり、発芽までの時間が長くかかったりします。
 そのため、採種後は採り播きするか、密封して冷暗所に貯蔵したほうがよいでしょう。
 
5 播種の方法
(1) ツツジ科、ヤナギ科などの微細種子
 一般に微細種子は、ピートモスやミズゴケの粉末などを単用するか、細砂と混用した用土に播種します。
 ツツジ科の種子は、ピートモスを混用した場合に比較的よく発芽し生長することが知られています。
 微細種子は播種後に覆土してはいけません。
 そのため、頭上からかん水できませんので腰水で吸水させます。
(2) その他の種子
 通常の種子は、小さいものでは薄い覆土をし、大きい種子ではやや厚めの覆土をして絶対乾かないように管理します。
 播種後、発芽までの経過は種類によって大きく異なりますが、自然の温度変化で管理すれば播種直後〜3年後の間に発芽してきます。
 なかには、一部が1年後に発芽して、残りが2年後に発芽するものなどもあります。
 このような現象は種子の休眠によるところが大きく、播種までの種子の貯蔵条件等によっても左右されます。
 
6 実際の種子の扱い例
(1) エゴノキ、ハクウンボク(エゴノキ科)、シキミ(モクレン科)、ヤマボウシ(ミズキ科)
 乾燥を嫌いますから、できるだけ早く播種しましょう。
 どうしても貯蔵したい場合は、湿らせた新聞紙にはさんでからビニール袋などに密封して、冷蔵庫などの冷暗所で保管します。 
 発芽は来年か再来年の春になります。
 
(2) ツバキ(ツバキ科)
 ツバキの種子も乾燥を極端に嫌いますので、エゴノキなどと同様の扱いをしてください。
 ただし、ツバキの種子は適当な水分と10℃以上の温度があれば発芽してきますので、参考にしてください。
(3) コナラ(ブナ科)
 コナラの種子も乾燥を嫌い、冷蔵庫に貯蔵しても発根を始めてしまうことが多いものです。
 従って、直ちに播種することをおすすめします。 年内に発根し、翌春には茎を伸ばしてきます。
(4) シナマンサク(マンサク科)
 シナマンサクの種子も乾燥を嫌いますし、休眠期間が長いので、すぐに播種しましょう。
 発芽は、ほとんどが再来年の春になるでしょう。

(5) イタリアンサイプレス(ヒノキ科)、コノテガシワ(ヒノキ科)   
 これらは乾燥状態で冷温所におくことにより貯蔵が可能ですが、すぐに播種した方が安心です。
 翌年の春には発芽してきます。
(6) キャラボク(イチイ科)
 キャラボクの種子は、長い休眠をすることが知られています。
 直ちに播種して、発芽は2〜3年後になるでしょう。
(7) アセビ(ツツジ科)
 アセビの種子は乾燥状態で冷暗所におけばある程度貯蔵できますが、すぐ播種した方が無難です。
 ミズゴケ粉かピートモス単用の用土に播種し、覆土はしません。
 発芽まではガラス板等で覆いをし、乾燥させないように管理すれば翌春に発芽するでしょう。
(8) トキワガキ(カキノキ科) 
 トキワガキは雌雄異株で常緑のカキです。すぐに播種して、発芽は翌春になります。