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質問66:樹林内に移植したコクランの葉がしおれた。常緑ではないんですか?


コクラン Liparis nervosa は茨城県以西の本州、四国、九州の常緑樹林下に分布するラン科Orchidaceae常緑の多年草で、6月〜7月にかけてあまり目立たない暗紫褐色の花を開きます。

花自体の鑑賞価値は高くありませんが、斑入り葉などの選抜個体が増殖されています。
樹林内に移植したとのことですが、移植の時期、移植前の状態、移植した樹林の環境、移植の方法などが不明のため明確な回答はできません。

そこで、宅地開発などに伴う自生個体の移植という前提で回答させていただきます。

1 基本的な性質
 コクランは空中湿度が高い常緑樹林下を好みます。
根は弱いうえにそれほど多くなく、樹林下のふかふかした腐葉土中に少々伸びている程度です。

 そのため、環境を変えると直射日光による日焼けや乾燥による葉焼け、凍霜害にやられやすく、適切な環境が作れなければ意外に栽培が難しい植物です。

 逆に、好適環境下では開花時に少なくとも前年の葉がしおれずにしっかり残っているものです。

2 移植の時期
 自生植物の救済のためには、時期を問わず移植しなければならないことが多いのですが、できれば春の展葉直前の移植をお奨めします。

 春の芽出し前であれば、環境の変化により前年の葉が痛んでもすぐに新しい葉の展開と新バルブからの発根が期待できます。
 新芽が伸長中の時期は芽を痛めやすく、真夏や真冬は高温・低温によるストレスが大きく枯死しやすいものです。

 不適時の移植により葉が痛んだ場合は、残されたバルブからの発芽に望みを託すほかありません。

3 移植先の選定
 移植の時期も大切ですが、どこに移植するかということも重要です。
 森林であればどこでもよいというわけではありません。可能であれば、移植前の環境と同様の樹種、樹齢、地形の場所を選びます。

 できれば、スダジイ Castanopsis cuspidata var. sieboldii やシラカシ Quercus myrsinaefolia などのブナ科 Fagaceae の照葉樹が優占する風の弱い適湿な林下を探しましょう。

4 その他の注意事項
 生態系の保全の観点から守るべき重要な事項があります。
 それは、自生地保護や回復の名目で全く異なる地域には絶対に移植してはならないということです。

 たとえば、A県のB山系にある個体群をC県のD山系に移すことや、由来不明の個体から増殖された実生苗を自然下に植えることはやってはならないということです。

 自然下の植物は、長い進化の過程を経て、様々な環境の変化に適応した果てに今日存在しています。
 現在、我々の目から見て同種に見えても、A県とB県の個体群は遺伝的な変異が大きいかもしれません。

 これらの遺伝的変異を無視してやみくもな「移植」や「自生地回復」を図ることは、逆の意味で自然の生態系破壊につながりかねません。
 これらの行為を行う場合、生態系関係等の専門家の指示を仰ぐことが必要です。